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東京地方裁判所 昭和24年(ワ)3819号 判決

原告 三岡物産株式会社

被告 株式会社第一銀行

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「訴外極東産業株式会社が、国(特別調達廳)に対する賣渡代金二十六万六千五百八十六円五十銭(JPNY四五一七フイラバインダーペーパーの納入代金)の債権を昭和二十四年二月十四日被告に讓渡した行爲は、債権額中金十七万千七百八十二円五十七銭の限度において、これを取消す。被告は原告に対し、金十七万千七百八十二円五十七銭及びこれに対する昭和二十四年九月二十日から支拂ずみに至るまで年五分の割合による金員を支拂うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」という仮執行宣言つき判決を求め、請求の原因として、又被告の抗弁に答えて、次のとおり述べた。

原告は昭和二十三年九月三十日訴外極東産業株式会社(以下單に極東産業という。)に対し、松脂を、代金二十万九十五円、即時支拂の約束で賣渡した。しかるに、極東産業はその支拂をせず同年十二月十四日原告に対し、右代金債務につき同月五日から一カ月三分の割合による遲延損害金を支拂うことを約し、次いで昭和二十四年二月十七日金五万円の内入弁済をした。原告はこの内入金の内一万二千八百六十円八十銭を昭和二十三年十二月五日から同二十四年二月十四日までの遅延損害金に充当し、残額三万七千百三十九円二十銭を賣買代金の元金に充当し、そして賣買代金の残金十六万二千九百五十五円八十銭及びこれに対する昭和二十四年二月十八日から完済に至るまで年一割の割合(約定利率を利息制限法所定の利率に引直したもの)による遅延損害金の債権につき、極東産業を相手取つて、静岡地方裁判所に請求訴訟を起し、同裁判所昭和二十四年(ワ)第八八号事件において勝訴の判決を受け(昭和二十四年五月二十五日言渡)、その判決は、同年六月二十日確定した。かようなわけで、原告は極東産業に対し、昭和二十四年二月十八日から同年九月五日まで年一割の割合による遅延損害金八千八百二十六円七十七銭を右残元金に加えた合計金十七万千七百八十二円五十七銭の債権を取得した。

他方極東産業は昭和二十三年十二月十六日及び同月三十日国(特別調達廳)に対しJPNY四五一七フイラバインダーペーパーを賣渡し、その代金九十四万六千五百八十六円五十銭の内金六十八万円の弁済を受け、残金二十六万六千五百八十六円五十銭の債権をもつていた。そして極東産業は、昭和二十三年十二月頃から債務がかさみ、支拂の資力が不足し、国(特別調達廳)に対する右債権が唯一の財産で他に財産がないという状態になつたにも拘らず昭和二十四年二月十四日、その債権者を害することを知りながら、国(特別調達廳)に対する右債権を、被告からの借受金十五万円の債務の担保として、被告に讓渡した。

よつて、原告は、極東産業と被告との間の前記債権讓渡行爲につき、原告が極東産業に対してもつている前記債権額十七万千七百八十二円五十七銭の限度において取消を求め、かつ被告に対し被告が前記債権讓渡によつて得た利益金中右取消の金額に相当する金十七万千七百八十二円五十七銭及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十四年九月二十日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支拂を求める。

被告が債権讓渡を受けるにあたり、詐害の事実を知らなかつたということは、否認する。

かように述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」という判決を求め、次のとおり答弁した。

原告のいうように、極東産業が国(特別調達廳)に対し、JPNY四五一七フイラバインダーペーパーの賣渡代金残額二十六万六千五百八十六円五十銭の債権をもつていたこと及び昭和二十四年二月十四日被告が右債権を讓受けたことは認める。原告が極東産業に対し、原告のいう債権を取得したこと、昭和二十四年二月十四日当時極東産業の資産状態が原告のいう通りであつたことは知らない。原告主張のその余の事実は否認する。

被告が極東産業から、国(特別調達廳)に対する債権を讓受けた事情は、次のとおりである。

被告は昭和二十三年十一月二十七日極東産業に対し、金十五万円を、弁済期を同年十二月二十五日、利息を日歩三銭と定めて貸與し、その際、返済資源は国(特別調達廳)に対する極東産業のバインダーペーパーその他の納入代金債権の回收金によることとし、そのために右代金債権の取立を被告に委任することにつき承諾をえた。ところが、取立委任については実際の手続に煩わしさがあつたので、弁済期を経過した昭和二十四年二月十四日、約束の趣旨に從つて、右貸金、これに対する日歩三銭の割合による遅延損害金及び貸金の請求、取立に要した費用の弁済を受けるために(但し、右金額を越える部分については、取立委任を受ける趣旨で)、国(特別調達廳)に対する前記債権を讓受けたものである。

被告は、同年四月六日特別調達廳から右債権全額の支拂を受け、このうち、金十七万六百八十六円五十銭を、貸付元金十五万円、遅延損害金四千五百九十円、取立に要した費用の一部金一万六千九十六円五十銭、(合計金十七万六百八十六円五十銭)の債権に対する弁済に充当し、残額金九万五千九百円は極東産業に返還すべきはずであつたが、昭和二十四年二月二十四日附で、極東産業から、右残額に対する債権を訴外加瀬沢勇及び渡辺仙太郎の両名に讓渡した旨の通知を受けていたので、極東産業から右返還債権を讓受けた右両名に対し、同年四月八日各金四万七千九百五十円を支拂い、これをもつて讓受債権全額につき決済を完了した。

かような次第であるから、本件債権讓渡は詐害行爲をもつて目すべきものではない。

仮りに、右債権讓渡が極東産業の債権者を害する行爲にあたるとしても、被告はその讓渡を受けた際、極東産業が多額の債務を負い、支拂の資力に不足している状態にあつたことは知らなかつたのである。

いずれにしても原告の請求は失当である。

かように述べた。<立証省略>

三、理  由

極東産業が国(特別調達廳)に対し、原告のいうようなフイラバインダーペーパー賣渡代金残額二十六万六千五百八十六円五十銭の債権をもつており、昭和二十四年二月十四日この債権を被告に讓渡したことは、当事者間に爭いがない。

よつて、原告が極東産業に対してもつているという債権の存否について判断する。眞正にできたことに爭いない甲第一号証と証人河口弘の証言とを合せ考えると、原告と極東産業との間に原告主張のような賣買があり、その後原告主張のような賣買代金に関する遅延損害金の約定ができたが、極東産業は原告に対し、右賣買代金の支拂をしないので、前記債権讓渡があつた昭和二十四年二月十四日当時においては、原告は極東産業に対し、右賣買代金二十万九十五円及びこれに対する昭和二十三年十二月五日から同二十四年二月十四日までの月三分の割合による遅延損害金の債権をもつていたのであり、その後同月十七日極東産業は金五万円の内入弁済をしたので、原告はこの内入金のうち金一万二千八百六十円八十銭を昭和二十三年十二月五日から同二十四年二月十四日までの遅延損害金に充当し、残額金三万七千百三十九円二十銭を賣買代金の元金に充当し、かくて昭和二十四年二月十四日債権讓渡があつた当時、極東産業に対する原告の債権で現存するものは賣買代金の残元本金十六万二千九百五十五円八十銭であると認めることができる。

次に前記債権讓渡が果して「債権者を害する行爲」にあたるかどうかを判断する。

眞正にできたことに爭いない乙第一、二号証、証人牧野四郎の証言によつて、眞正にできたと認められる乙第三、四号証、右証人及び証人高野武二の各証言によつて眞正にできたと認められる乙第五号証と、証人牧野四郎及び同高野武二の各証言とを合わせ考えると、次の事実を認めることができる。被告は昭和二十三年十一月二十七日、弁済期を同年十二月二十五日、利息を日歩三銭と定めて、金十五万円を極東産業に貸與し、特に保証人及び法定の物的担保を定めはしなかつたが、その貸借の際、極東産業は被告との間で、その返済資源には極東産業の国(特別調達廳)に対するバインダーペーパーその他の納入代金債権の回收金をもつて充て、そのために右代金債権の取立を被告に委任するという約束をした。ところが、極東産業は弁済期が経過し、被告が請求しても弁済しないので、被告は極東産業及び特別調達廳との間で取立委任に関する手続を進めたが、実際上の手続はとかく煩わしいことばかり多くてうまくいかなかつた。そこで被告と極東産業は協議の上、取立委任ということは取り止め、これにかえて、被告の極東産業に対する債権弁済のために極東産業が国(特別調達廳)に対してもつているJPNY四五一七フイラバインダーペーパー納入代金残額金二十六万六千五百八十六円五十銭の債権を被告に讓渡することとし、同年二月十四日、その通り行つた。即ち、被告の極東産業に対する前記の貸金、これに対する遅延損害金及び右取立のために、被告が要した費用に弁済するためにそしてこれを超える部分については單に取立を委任する趣旨で、昭和二十四年二月十四日、極東産業は国(特別調達廳)に対する前記債権を被告に讓渡した。そして同年四月六日、被告は特別調達廳から右讓受債権全額金二十六万六千五百八十六円五十銭の支拂を受け、約束どおり貸付金十五万円、昭和二十三年十二月二十六日からの遅延損害金四千五百九十円及び取引高税証紙その他取立に要した費用金一万六千九十六円五十銭(これは一部)の弁済に充当し、残額金九万五千九百円については、これよりさき極東産業において右返還債権を、十万円ありとして半額ずつ加瀬沢勇及び渡辺仙太郎に讓渡し、極東産業から被告に宛て、右両名に右返還債権を五万円ずつ讓渡したという通知がきていたので、同年四月八日右両名に各金四万七千九百五十円を支拂い、これをもつて讓受債権全額についての決済を完了した。かように認めることができる。

以上認定の事実から明らかであるように、極東産業の国(特別調達廳)に対する債権をもつて、被告の貸金債権の回收にあてるという貸借当時の約束は、はじめにきめた「取立委任」という方法をさけ、「債権讓渡」(しかし債権額を超える部分は取立委任)という方法によつてこれを貫徹したのであるが、いずれの方法にせよ、国(特別調達廳)に対する債権を取立てて、弁済に充当するという、本來の目的を貫徹するための手段という点においては同一であるから、後者の方法を採つたことは、被告と極東産業との間の貸借当時の約束を履行したことになるといわなければならない。そして被告は、約旨に基き取立金の一部をもつてその貸金債権、取立費用の弁済に充当し、残額は加瀬沢勇外一名に支拂つたのである。この加瀬沢外一名に拂つたことは、債権讓渡人に返還したと同じにみるのが相当である。

さて、極東産業が国(特別調達廳)に対する債権を被告に讓渡した行爲は、それだけを切りはなしてみると、いかにも極東産業の一般債権者を害する行爲であるようにみえるが、被告が極東産業の国(特別調達廳)に対する債権を貸金債権の返済資源にあてる約束のもとに、新たに極東産業に金十五万円を貸付けた行爲と包括してみるときは、右行爲は少しも極東産業の一般債権者を害することにはならないといわなければならない。何となれば、被告は、極東産業の国(特別調達廳)に対する債権を貸金債権の返済資源にあてる約束で新たに極東産業に金を貸し、約束通り右貸金債権及びその取立費用の弁済を受けるために、極東産業の国(特別調達廳)に対する債権を讓り受けたのであつて、被告の債権額、取立費用額の範囲においては、被告が極東産業に金を貸したときと、極東産業から債権を讓り受けたときとを比較して、極東産業の財産には格別増減がないとみるのが相当であり、又被告の讓受債権額中右の額を超える部分については、極東産業の国に対する債権は、極東産業の被告に対する債権に変つたというにすぎず(被告が、極東産業から債権を讓受けた加瀬沢勇外一名に拂つたことは、被告が極東産業に返したことと同視すべき関係にある。)やはり極東産業の財産には増減がないからである。そして、本件におけるように、被告が、極東産業の国(特別調達廳)に対する債権を貸金債権の返済資源にする約束のもとに、極東産業に新たに金十五万円を貸付け、のちに、約旨に從つて貸付金、取立費用の弁済にあてるために、そして超過部分は取立委任の趣旨で、極東産業から国(特別調達廳)に対する債権を讓受け、国(特別調達廳)からその支拂を受けた上で、右貸金債権、取立費用に充当し、残額を極東産業から債権讓渡を受けた加瀬沢勇外一名に拂つたという場合においては、被告が前示約束で極東産業に金を貸してから、その債権の弁済を受け、加瀬沢外一名に支拂をするまでの行爲は連続一体のものとして観察した上で、極東産業と被告との間の債権讓渡行爲は詐害行爲となるかどうかを決するのが正当であるから、極東産業が被告に前記債権を讓渡した行爲は、極東産業の一般債権者を害することにはならないといわなければならない。

極東産業の本件債権讓渡行爲が客観的に詐害行爲にならぬ以上原告の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、失当である。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 新村義廣 新見俊介 西村宏一)

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